米国・犯罪報道被害者遺族から学ぶ
日米の犯罪被害者遺族と死刑
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MVFHRメンバー、原田正治さんと浅野健一教授
6月29日、同志社大学寒梅館ハーディーホールにて、シンポジウム「日米の犯罪被害者と死刑―米国・犯罪報道被害者遺族から学ぶ」が開催された。第Ⅱ部 を中心とする三部構成のシンポジウムは正午から約8時間かけて行われ、計9名のゲストが講演。愛する肉親を失った「米国・人権のための殺人事件被害者遺族 の会」の人々は、どのようにいのちと向き合い生きてきたのか。その置かれた実情や多様な心情、時間とともに変わるもの、変わらないものは何か。元死刑囚・ 免田栄さん、「Ocean-加害者と被害者の出会いを考える会」代表の原田正治さんらも招いて、死刑について考えた。(浅野ゼミ3回生、シンポ実行委員会 メンバー)
「それでも私たちは死刑を望まない」 被害者遺族の真の癒しとは
「人権のための殺人被害者遺族の会(Murder Victims’ Families for Human Rights=MVFHR=)」の会員5名が、それぞれ失った家族の写真をスクリーンに映し出しながら、講演した。(第Ⅱ部)
MVFHR会員による講演
当時10歳の息子を誘拐され殺されたロバート・カーリーさんが話したのは、事件後の死刑に対する気持ちの変化だ。事件直後は息子を失った辛い思いから死刑を望む立場にいたが、時間とともに再考。後に刑事手続き不公平だと痛感し、死刑に反対にする立場へ意見を変えた。
妊娠していた妹とその夫を殺されたジーン・ビショップさん。妹のナンシーさんは亡くなる間際、ハートマークとUの文字、「愛している」という言葉を残して亡くなったという。ビショップさんは、生命と平和を愛する妹を汚すような死刑は望まないと訴えた。
ロバート・ミ―ロポールさんは、6歳の時に両親が原子爆弾に関する情報をソ連に提供しようとしたとされ、スパイ罪で処刑された。冤罪だった。家族が処刑 された子どもたちが社会で無視され続けている現状で、処刑することは新たな被害者、新たな痛みを生み出すだけであると強く主張した。
オクラホマ連邦政府ビル爆破事件で一人娘を殺されたバド・ウェルチさんは、初めは怒りと復讐心でいっぱいで極刑を求めたが、犯人を処刑することは自分を 癒すことにはならないと気付いた。犯人の一人の父親と妹に出会い、彼らも深い悲しみに包まれていることを理解。子どもを失った親は心の中で子ども葬らなけ ればならないと伝えた。
父を殺人で失ったレニー・クッシングさんは、父親と戦争で日本人と戦った場所を訪れたとき父親が「なんて無駄な血をたくさん流したのだ」と呟いたと話し た。父親は母親の目の前で殺された。事件直後は、犯人の事よりも一人になった母親や、心の空虚感をどうするのかを考えた。やがて犯人が逮捕された時、死刑 について考えなければならなくなった。被害者遺族は死刑を望んでおり、それが癒しとなると信じられていることが多い。しかし、死刑を望むことは犯人に父親 を奪われるだけでなく、自分の気持ちまでも奪われることであると話した。社会は死刑がなくても機能し、死刑は「無駄な血を流すこと」であると訴えた。(第 Ⅱ部 「米被害者遺族の会」会員5名の報告より)
“Eys on Preciousness”
講演する風間トシさんと処刑用のベッド
MVFHR会員5名による講演に先駆け、第Ⅰ部は同会の理事である風間トシさんが「台湾の死刑制度」をテーマに講演した。渡米生活35年、ニューヨーク 在住のカメラマンである風間さん。米国の少年死刑囚や台湾の死刑囚を撮影してきた経験をもとに、米国や日本、台湾、中国など世界各地で講演活動を続けてい る。過去何度も同志社で単独の講演をしているが、今回はMVFHRの理事として韓国、日本、台湾を巡る講演ツアーの一環で来日。実際に撮影した写真のスラ イド上映とともに、死刑囚を撮影し始めたきっかけ、彼らとの出会いと交流のなかで感じた死刑の生々しい現状を報告。死刑がいかに残虐で非人道的行為か、そ して人々がどれだけ死刑について知らずに生きているか、被害者遺族らの講演を前に訴えた。
多様な被害者遺族の感情 犯罪報道の在り方
第Ⅲ部では、犯罪被害者の遺族と死刑について取り上げたドキュメンタリー番組「罪と罰」(東海テレビ)を上映。その後製作者である斉藤潤一同局ディレク ター、「免田事件」冤罪被害者で元死刑囚の免田栄さん、弟を殺された原田正治さん(Ocean-加害者と被害者の出会いを考える会)によるパネルディス カッションが行われた。被害者遺族は死刑を望むものであるという思い込みやそれを助長する報道、死刑を含む司法制度の問題、被害者の真の救済などについて 討論。冤罪被害者や被害者遺族、そしてそれを取り上げるマスコミとして、日本の現状に対して意見を述べた。また質疑応答においても死刑とマスメディアの報 道の仕方についての質問などが会場から寄せられ、死刑存置の考えが根強い日本でどのように報道するべきかという議論がなされた。(了)
斎藤ディレクター、免田さん、原田さんによるパネルディスカッション
最後に浅野健一教授が、本日のシンポジウム全体を通して総括した。「事実をきちんと調査報道すればそれは必ず社会に評価される。マスコミ労働者も企業の 論理ではなくジャーナリストとして仕事をしようとして日々苦悩しており、斉藤ディレクターもその一人であると思う。彼らに対して、所詮マスコミは金になれ ば記事や番組にするんだ、という風に切り捨ててしまわないでほしい」
MVFHRメンバーの講演や免田さん、原田さんの話を通して、改めて感じたのは、加害者を死刑にしろと言う前に、犯罪被害者を本当に救済するにはどうし たらよいかを考えるべきだということ。行政による経済的支援と地域社会などによる精神的支援が重要であり、それらをやることなく加害者をたたくことによっ て事件を終わらせてしまっているのが私たちの社会の大きな問題であると述べた。また、昨年から企画していた今回のシンポジウムを進めた学生や協力してくれ たスタッフに対し感謝の意を述べ、8時間に及ぶシンポジウムをまとめた。
なお、原田さんは今年2月に講演の数日後倒れ入院、リハビリ中だが、病気を見事に克服しての参加だった。そんななかシンポジウムへの参加要請を快く受けてくれた原田さんに、この場を借りて心から感謝したい。
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